Yoshi Nishikawa Blog

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地道に症例報告を記す〜EBM

症例報告とEBM

EBM(Evidence Based Medicine)が浸透したいまだからこそ、症例報告を記すことが重要だと感じている。

EBM

エビデンスレベルの1例として下記が挙げられる。[1]

I システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
II 1つ以上のランダム化比較試験による
III 非ランダム化比較試験による
IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
IVb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
V 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

症例報告は実にVに相当するものだ。 しかし、ランダム化比較試験に含まれる患者は、実際の臨床現場においては一部にすぎない。 ランダム化比較試験は、選択基準と除外基準が細かに設定されているため、臓器障害のある患者、高齢者などに関しては、詳細な情報が得られ難いのが現状だ。

Real-world data

ここで、Real-world dataという話を取り上げる。[2] 実臨床においては、例えば、高齢者の増加や合併症(腎機能障害など)の増加により、ランダム化比較試験に入る患者はそれほど多くない。
Real-world dataが近年改めて脚光を浴びたのは、まず、2014年に国際医学誌ISPOR Connections誌に、ランダム化比較臨床試験とデータベースを用いた観察研究との有用性の比較についての論文が掲載されたことだ。[3] また、同年にはJAMAにおいて過去の薬剤のランダム化比較試験の結果とデータベースを用いた観察研究を比較することで、同様の傾向を示しているという報告があった。[4] これらを経て、実臨床に基づいたデータが再認識されている。世の潮流としては、「質の高い観察研究」を重要視しているのだ。

症例報告の紹介

私たちは2016年3月、高齢者における大腸内視鏡前処置ドリンク嘔吐による食道破裂症例を米医学誌に報告した。[5] このような報告は、過去に複数報告があったが、高齢者に多い可能性があることを指摘したのは、私達が初めてだった。 本報告は、米医療ニュースサイトヘルスデーにも大きく取り上げられた。[6]

Health News Articles | News for Physicians & Medical Professionals

最近改めて、症例報告の持つ力を実感している。

References

  1. 福井次矢, 他編. Minds診療ガイドライン作成の手引き 2007. Minds. 2007.
  2. Real-Life Data: A Growing Need
    https://www.ispor.org/News/articles/Oct07/RLD.asp
  3. Crown WH. The ongoing debate about the merits of RCTs versus observational studies. ISPOR Connections, 20: 4, 2014.
  4. Dehabreh IJ, Kent DM. Can the learning health care system be educated with observational data? JAMA, 312:129-130, 2014.
    http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1886197
  5. Esophageal Rupture Associated with Colonoscopy Preparation
    http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.14003/full
  6. Esophageal rupture described after drinking PEG solution
    http://www.physiciansbriefing.com/Article.asp?AID=709258